来 歴


五月の森


まだ夢みがちな今年の緑を
くり返し揺すって行く風の音も
絶えず群れていようとして
羽ばたいて行く鳥の声も
同じ合図を確かめながら
逃げて行くけものの足跡も
どこかが人間の挨拶に似ている
青い空が
ゆっくりひび割れる音も
ドラのような太陽が落ちる音も
見えない星が漂う音も
どうかすると人間の叫びに聞えてしまう

口ごもりながら
やっと開こうとしているうす紅の蕾
ふくれあがって
もう壊れるしかない葉先の雫
どのようにしても
隠さねばならぬ繊細な毛根
これらはまぎれもなく人間に属している

そして熟れ過ぎた人間のことばは
道ばたに吐き捨てられ
五月の森は
沈黙をことばの種子として
かけがえのない豊かな闇を育てている

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